今さら好きだと言いだせない
「そこで町宮に提案がある」


 芹沢くんは急に真剣な顔をして、私をじっと見据えた。


「俺たち、付き合ってることにしないか?」

「え? それって……偽装、だよね?」


 最初は小さかった芹沢くんの嘘が、どんどん大きなものに変化している気がする。それがなんとなく怖い。


「大勢の人に嘘をついて、騙すみたいになるよ」

「そんなに大げさに考えなくても。俺は溝内さんにあきらめてもらえるし、町宮は高木さんにちょっかいを出されずに済む。互いにそのほうが都合がいい」


 お互いに相手の盾になることでうまくいくのだと、どうやらそういう考えらしい。
 決して冗談でそれを口にしたわけではないのだろう。彼は真面目な表情を崩さなかった。


「別にみんなに言いふらす必要はない。社内で誰かに俺と付き合ってるのかと聞かれたら、首を縦に振っておけばいいだけだ」

「私、多くの女性社員を敵に回しそう」

「なんだそれ」

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