今さら好きだと言いだせない
 ポツリと本音を漏らせば、思いきり芹沢くんにあきれ顔を向けられた。
 彼にはもう少し自分の人気の高さを自覚してもらいたい。


「……わかった。溝内さんは私にはあきらめるって言ってたし、高木さんは変わり身が早そうだし。それぞれ落ち着くまで、ってことで」

「うん、それでいこう」

「だけど、燈子には事情を話しておきたいの」


 仲の良い同僚であり友人である燈子にまで嘘はつきたくない。彼女にはいつも精神的に助けてもらっているから。


「廣中なら大丈夫だろう。協力者になってもらおう」


 彼はそう言ったけれど、私としてはそこまで燈子を巻き込むつもりはなくて。ただ真実を知っていてほしいだけだ。

 なぜこんなことになってしまったのかと、紅茶の入ったカップを両手で持ちながらかすかに首をひねる。


「じゃあ、これ渡しとく」


 芹沢くんはスーツのポケットからなにかを取り出し、私に受け取れとばかりに差し出してくる。


「なに?」


 よくわからないまま受け取ってしまい、手の中の物を確認しつつ尋ねた。


< 54 / 175 >

この作品をシェア

pagetop