執事的な同居人
「………え、誰?」
もちろん、私は知らない。
「やだな~もう忘れられてんの俺」
「人違いかと思いますけど…」
ハハッと爽やかに笑うこの男。
その馴れ馴れしさに後ずさる。
(制服は私と同じ…)
その事で同じ高校だという事は理解出来たが、
「あ。危ないよ」
「っ!」
彼はにこやかに微笑みながらパシッ、と私の手首を掴む。
「ここから落ちたいの?石沢紀恵さん。」
「っ………」
人違い。ではなさそうだ。
「まあ覚えてないのも無理ないね~」
私を引き寄せて安全な位置に戻すと、すんなり手を離してくれた。
「俺、茶髪から黒髪に変えたから」
「はあ…そうですか」
「(どーでもいい)」ただそれだけを思った私に、
「どーでもいいとか思ったでしょ~」
彼はそれを読み取ったかのようにヘラヘラと笑う。
「…あーあ。石沢サンってほんと男に興味ないよね」
「……それが何か?」
喧嘩でも売られた気がしてムッとしていれば、
「俺、佐々野海(ササノカイ)。石沢さんとは同中なんだけど覚えてない?」
ヘラヘラとしたあの笑顔が消え、真剣な瞳で微笑む彼。
(ササノ…カイ?)
そんな彼の名前だけは聞き覚えがあった。