アンドロイド・ニューワールド
「普段使わない筋肉を使うと、こうなるんだなぁ…」

「定期的な運動を推奨します。まずは、百キロのダンベルを片手で持ち上げる練習から始めてみたらどうでしょう?」

「…死ぬでしょ…」

と、緋村さんは力なく言いました。

そうですか。人間の身体は脆弱ですね。

私なら、通常モードでも、百キロのダンベル三つは担げますが。

それにしても。

「筋肉痛の原因の一端は、私にもありますね。良かったらお詫びに、ご自宅まで運搬を、」

「いや、それは結構なんだけど」

「そうですか」

と、私は言いました。

何故ここまで運搬を頑なに拒まれるのか、理由は分かりませんが。

「今日は体育館に行けなくて残念ですね。仕方がないから、別の話題について話ましょう」

「え?うん…。何話すの?」

「そうですね…」

と、私は考えました。

会話の引き出しは、いかなるときでも、いかなる相手でも使えるよう、常に用意しておくべきです。

やはり、会話の引き出しは、汎用性が高い方が好ましいですね。

では。

「なら、深海魚について話しましょうか」

「…」

と、何故か緋村さんは無言でした。

「…何故黙るのですか?」

「いや…。久露花さん…深海魚好きなのかなって…」

「いえ、別に特別深海魚が好きな訳ではありませんが」

「何で敢えてそんな話題…?」

「万人が知っている、汎用性の高い話題だと判断しました」

「…俺、深海魚全然知らないんだけど」

と、緋村さんは言いました。

そうですか。緋村さんは、深海魚についてご存知でない。

「緋村さん、変わってますね」

「…あんまり、君には言われたくない言葉だったな…」

と、緋村さんは呟いていました。

「しかし、心配することはありません。これを機会に、私が深海魚の何たるかを教授しましょう」

「…無駄知識だ…」

「ちなみに今回の情報の出典は、『猿でも分かる!初心者の深海魚』という本です」

と、私は言いました。

やはり、出典は明かしておかなければいけないと思ったので。

「『Neo Sanctus Floralia』の図書室に置いてあった本です」

「うん…。むしろ、上級者の深海魚は何なのかが気になるよ…」

「では、始めても良いですか?」

「どうぞ…」

と、緋村さんは言いました。

許可が出たので。

では、今日は仲良く、深海魚について語り合うとしましょう。

素晴らしい友情ですね。
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