若旦那様の溺愛は、焦れったくて、時々激しい~お見合いから始まる独占契約~
しかし、女将さんがレジに向かう前に、「明日の帰りにでも、蓮に持たせるわね」と私に囁きかけたのを聞いて、腑に落ちないかのように顔をしかめた。
「富谷さん、あなたもしかして、まだヤツシロで働いていないの? 蓮君と婚約したなら、普通は彼のことや仕事をもっと理解するためにそうするでしょ?」
痛いところを突かれてしまい何も言えなくなった私を庇うように、女将さんが口を挟む。
「里咲ちゃんにはもうすぐここで働いてもらう方向で、ちゃんと話は進んでいるのよ」
「私、ふたりが婚約した頃にもヤツシロの本店で働く予定だって、直接蓮君から聞いてますよ。もう一年が経とうとしてるじゃないですか」
婚約した当初、確かに私がヤツシロで働く話も出た。
それなのに、今もこうして実家で働き続けているのは、関係を解消した時のことを考えて蓮さんと一緒に決めたこと。しかし、そんなことここでは言えない。
「私ならすぐに働き出すのに。蓮君や女将さんに甘えすぎよ」
渡瀬先輩の言葉の節々から、私が蓮さんと婚約したことが気に入らないのが伝わってくる。
何も言い返せなくて唇を噛んだ瞬間、自動ドアが開いた。