夜風のような君に恋をした
「おはよ、市ヶ谷(いちがや)

「おはよう」

重い気持ちに引きずり込まれていた私は、どこからともなく聞こえてきたその会話にハッと我に返った。

いつの間にか、乗り込んだ最寄り駅の次の駅に停まっている。

私がいる場所から数人の乗客を隔てた先、乗車口付近に、男子高校生がふたりいた。

水色の半袖シャツにボーダーのネクタイ、紺色のズボン。

K高の男子たちだ。

いつもこの駅から乗ってくる彼らを見るのは、夏休み前以来だった。

「久しぶり、元気だったか?」

「元気だったよ。お前は? 夏休み、楽しかった?」

「全然! 俺、部活しかしてないし。暑くてダルいだけだったわ」

「サッカー部、忙しいもんな。お疲れ」

「お前は相変わらず爽やかだな、市ヶ谷。さぞや充実した夏休みを過ごしたんだろう?」

「別に、そんなことないって」

ははっ、と笑う市ヶ谷と呼ばれた彼を見ながら、先ほどまで騒いでいた女子高生たちがヒソヒソ声で耳打ちし合っている。

スマホに目を落としていたおばさんや、汗を拭いていたスーツ姿のおじさんまで、彼にチラリと視線を向けていた。

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