気づけば君が近くにいてくれた



「ちょっとお手洗い借りるね」


「うん、どうぞ。トイレ、階段降りてすぐのドアだから」


「ありがとう」



勉強会の途中で藤波くんが席を立った。


私の部屋には、香純ちゃんと2人きり。



「ねぇねぇ、ちょっとお話しない?」


「え?……お話し?」



どうしよう。


私は会話が苦手だ。


いや、前の私ならポンポンと言葉が出てきて、話すのなんて苦じゃなかった。


でも、不登校になって周りから距離を置いてしまった私は、他人との会話が苦手になってしまった。



「あ、全然身構えなくていいよ?ほら、勉強漬けで疲れたからサボりたいだけ!」



えへへ、とウインクをして見せる香純ちゃん。


ただのサボりか。


確かにずっと机に向かっているのも苦痛だからいいかもしれない。


勉強会のリーダーもトイレで不在だし、ちょうどいい。


目を盗んでサボるなんて、なんだか悪いことをしているみたいで、ちょっとだけワクワクした。




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