悪魔な太陽くんと餌の私
残りの高校生活は、俺にとって消化試合みたいなものだった。
適当に人に好かれて、だけども誰とも仲良くならず、揉め事も起こさずに卒業する。
嘘をつくのも、仮面をかぶるのも得意だった。
適当に良い顔をしていれば、周囲は勝手に俺をチヤホヤしてくれる。
けれども、ときおり熱心な視線を送ってくる女は鬱陶しかった。
「私、ずっと春日くんのことが好きで……」
そういって色目を使ってくる女が、母さんと重なって吐き気がした。
俺のことが好きだなんて、こいつらは一体、俺の何を見ているんだろうか。
学校での姿なんて、全部つくりものだ。
俺が本当は何を考えてるか知って、それどころか人間でさえなくて、あげく実の母親を殺したなんて分かったらきっと逃げ出すに違いない。
「ごめんね。俺、軽はずみな気持ちで女の子と付き合いたくないんだ」
誠実そうな男を演じて告白を断る。良心は痛まない。
どうせこの女も、母さんと同じ。俺に理想を押し付けているだけなのだ。
恋なんてくだらない。愛なんて信じられない。女なんて、ただのエサでしかない。
そうやって消化試合な毎日を過ごしている中で、だけど、月乃ちゃんに出会った。
月乃ちゃんが俺のマンションにやってきたのは、偶然だった。
これから一人で生きていくための予行練習として、俺は一人暮らしを始めていた。
偽造書類を作る練習として、橙木という別人の名前でマンションを借りてそこで暮らす。
マンションは、餌場としても都合が良かった。
その日も適当に拾った女を連れ込んで、精気を奪っていた。
連れ込んだ女が、腹が減ったとうるさいから、近くにあった弁当屋にデリバリーを頼んだ。
そうしてやって来たのが、クラスメイトの月乃ちゃんだ。
雨夜月乃は、クラスでも目立たない少女だった。
いつも教室の隅の方で、2,3人の少人数でひっそりと話をしているような少女。
だけど、俺は彼女のことをよく知っていた。
自分でいうのもなんだが、俺の外面は完璧だ。
初対面の人にはだいたい好印象を持たれるし、嫉妬以外で嫌われることは少ない。
だけども、彼女はいつも胡散臭そうな目で、遠巻きに俺を見ていたのだ。
デリバリーを受け取りに出た俺を見た瞬間、ゲッと嫌そうに顔を顰めたのを見逃さなかった。
そうやって改めて意識して見れば、彼女の気配は他の子と少し違う。
興味が湧いた俺は、彼女を誘い出して印をつけた。