合わせ鏡の呪縛~転生して双子というカテゴリーから脱出したので、今度こそ幸せを目指します~

出会い(五)

 気に入っていた。すでに過去形だ。母のその言葉に、男性の顔色がみるみる蒼白になっていくのが分かる。この人はどちらが上客なのか、きちんと分かっているのだ。他の若い店員が彼女たちの元へ行ったものの、興奮しいているのか、まだ騒いでいる。

「……あのお方のお連れ様だから、許可したものを……」

 下を向き、ぶつぶつ独り言を繰り返す。こうなると、少し気の毒に思えてきた。

「こらこら、どうしたんだい? 小猫ちゃんたち」

 階段をゆったりと男が上がってきた。

 彼女たちの連れの男だ。店員を押しのけ、私を指さしながらワーワーと女たちは何か文句を言っている。

 私たちのところにいたオーナーが、うんざりしたような顔を一瞬した後、すぐに笑顔を取り繕う。

「キース様、さすがに騒ぎを起こされるとこちらも困ってしまいます」

 キースと言われた男はこちらをちらっと見た。

 金よりの茶色い髪に、夜明けを思わす茜色の瞳。瞳の色と同じ服には、細やかな金の刺繍が施されている。

 金持ちの上級貴族の次男か三男といったところだろうか。

 元々、あまり夜会などに参加しない私には誰かまでは分からないが、身分がそれほど低くないことは分かる。

 それにしても、ジロジロ見るなんて失礼すぎる。まだ文句を言うつもりかしら。

 構えていると、そのままこちらに近寄ってくる。

「うちに子たちが迷惑をかけたようだ。気分を悪くさせてしまって申し訳ない」
< 49 / 211 >

この作品をシェア

pagetop