堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
 押し付けられた胸からは、ジルベルトの鼓動が聞こえる。それが耳元でうるさく鳴っている。大きく、そして速い。

「あの、ジル様?」
 エレオノーラはそのままジルベルトを見上げた。彼と目が合った。

「エレン、もう少しこのままで」
 ジルベルトは彼女を抱いている腕に少し力を入れる。彼女を手放したくない、という表れのように。

「あ、はい。恥ずかしいですが。あの、重くはないですか?」
 少し、頬が火照ってくるのがわかるエレオノーラだが、それを誤魔化すかのようにジルベルトへ尋ねた。

「ああ、重くはない」
 ジルベルトはろうそくの炎を吹き消すかのように、ふっと息を吐いた。
 何を考えているのだろうか。
 これ以上、何を言うべきかエレオノーラもわからなかった。言葉が出てこない。

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