堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
 何しろジルベルトの身長は百八十を超えている。それに引き換えエレオノーラの元の身長は百六十あるかないか。変装のためにそれを十センチほど高く見えるように誤魔化してはいたが、そんなごまかしが通用する相手でもなかった。身長は高くしていたけれど、体重はエレオノーラのそれのまま。
 そして、そのぶつかってから押し倒された直後は、なんともまあ、場所が良かったのかタイミングが良かったのか。気付いたらお互いの唇が触れ合っている状態だった。

「すまない」
 と言って、少し頬を赤くしたジルベルトは彼女から離れようとしたのだが、そのときに突いた左手の先にあったのがエレオノーラの右胸だった。エレオノーラの昔の言葉で言うと、ラッキースケベというものに分類されるのかもしれない。
 そしてここで「この手をどけていただけないでしょうか」という(くだり)に繋がる。

「この流れにリガウン団長が責任を取る流れがありますか? ありませんよね?」
 エレオノーラは兄に向って身を乗り出した。
 ダニエルは右足を上にして足を組み、その右足の上に右肘をついたうえで、右手で顎を触れた。どうやら何かを難しく考えている様子。この沈黙が恐ろしい。

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