堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
 そんな彼女の任務は専ら潜入捜査だ。あるときは娼館の娼婦、あるときは賭博場の鴨、あるときは酒場の店員。そうやって至るところに潜入し、この国にとって不利益となりそうな情報を仕入れてくる。それを騎士団内に展開するのが彼女の役目。
 今回の仕事は、先述した通りの窃盗団の密売の摘発。彼らは盗んだものを密売して、金を手に入れようとしていた。
 エレオノーラは騎士団員でありながらも、あの店の男性店員として任務をこなしていた。普通に客に酒を提供する、だけ。たまに女性客から口説かれることもあったが、それを笑顔で流す。とにかく目を離していけない相手は窃盗団たちである。
 そいつらが密売についてやっと動き出したのだ。長かった。酒場に潜入して一月(ひとつき)。もう一生そのままこの酒場の店員になるんじゃないかと思い始めたころ。彼らは二階にあるちょっといいお部屋で、取引を行うために動いたのだ。
 待った甲斐があった。だが、それに気付いたことに気付かれないよう、エレオノーラも店員として振舞った。

 時は満ちた。今がその時――。

 第一騎士団が踏み込んだ。タイミングとしてはベスト。窃盗団たちの大半は拘束されたが、勘のいい親玉が逃げた。その親玉を追っていたのがエレオノーラと、第一騎士団の団長であるジルベルト。同じ獲物を狙っていたためか、ぶつかった。そして体力的に負けてしまったエレオノーラはジルベルトに押し倒される、という構図になってしまった、というわけ。
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