堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
 そろそろ時間なのだろう。複数の足音が聞こえてきた。どうやら、彼らがやって来たようだ。これも予定通り。

「おい、マリー。あいつらが来たぞ」

 アンディは息を弾ませ、楽しそうに言った。

「そう」
 マリーは椅子をきしませて、ゆっくりと立ち上がる。
「あなたも一緒に来てちょうだいね」
 マリーは彼女の傍らに膝をつき、その手で顎を掴んでそう言った。それから、言い終えた途端、彼女の顎を乱暴に突き放した。
 足を結んでいた縄だけは解いてあげよう。立たせることで、逃げられるかもしれない、という希望が湧く。だが、その希望を失った時、彼女はさらなるどん底に突き落とされるはずだ。微かに見えた希望の光を失ってしまうのだから。
 彼女が逃げられないように、マリーは後ろに縛った手をしっかりと押さえていた。微かな希望だけを与えるように。

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