堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます

7.出発です

 隣国のバーデールは馬車で二日の距離だ。ジルベルトが主となってクラレンス陛下の護衛についている。
 エレオノーラは通訳のセレナとして、同行することになった。なぜ、セレナという名にしたのか。それはジルベルトが間違えて彼女をエレンと呼んでも、似ている名前でついつい妻の名を呼んでしまった、という言い訳ができそうな名前だから、である。
 ジルベルトならやりかねない、いや、むしろ絶対にやる、とショーンもダニエルも思っていた。今回のエレオノーラの潜入調査において、キーマンになっているのがジルベルトであることにジルベルト本人は気付いていないし、エレオノーラも気にしていない。だが、ショーンとダニエルはそう思っている。ジルベルトの動き一つで、今回の潜入調査の結果が大きく変わると、そう思っている。

 さて、エレオノーラが扮しているセレナは、首元まできちっと締めたブラウスにジャケットを羽織り、足首まで隠れる丈のスカートを身につけていた。髪はすっきりと一つにまとめて、眼鏡までかけている。ジルベルトでさえ、三度見したほど。いや、ジルベルトは以前にもこの恰好を見たはずなのだが、やはり中身がエレオノーラとは思えない。

「ご無沙汰しております。ジルベルト様。本日はこのような仕事を私にご紹介いただきまして、ありがとうございます」
 と通訳のセレナをすでに演じているエレオノーラ。だから、本当にこれの中身はあのエレオノーラかと……以下略、と思っているジルベルト。

「ああ。エレンも貴殿に会いたがっていた。だから時間があるときに、我が家に遊びにきてもらえると、彼女も喜ぶ」
 と答えてみた。こんなんでよかったのだろうか、とジルベルトは思う。

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