堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます

8.未成年はお断りです(1)

 そこに足を踏み入れたのは初めてだった。きらびやかな光が入り口を覆っていて、そこに入るのをためらっていた。
 今日は何を思ったのか思い切ってその一歩を踏み出してみた。ここに来れば運命の相手に会えるかもしれない、という密かな期待があったのかもしれない。運命の相手を捕まえるためには、少々自分を誤魔化す必要がある。そう彼は思っていた。

 中に入ると、やはりそこもきらびやかな世界だった。色とりどりのドレス、しかも身体のラインを強調するようなドレスを身に纏う女性たちが、鮮やかに笑顔を浮かべている。品のいいタキシードに身を包む男性たち。年齢層は、青年と呼ばれ始めるような年代から初老を過ぎた年代までと幅広い。ただ、彼らの共通点はきらびやか、ということ。

 一通り店内を見回すと、思わず目を惹く女性が一人。どうやら彼女もこちらに気付いたようで目が合う。にっこりと微笑んだ。彼女はゆっくりとこちらへ近づいてくる。

「こんばんは」
 ドキリと心臓が鳴った。
 まさかこんな自分が声をかけられるとは思ってもいなかったからだ。

「あなた、初めてね?」
< 304 / 528 >

この作品をシェア

pagetop