堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
「気付いて、いたのね」

「マリーのことならなんでもわかるよ」
 フレドリックは笑み、そこで薄い茶色の液体を一口飲んだ。氷がカランと鳴く。

「昔の話よ」
 マリアは自嘲気味に笑んだ。そう、それは昔の話。今もそうであれば、こんなところで働いてはいない。

「だけど、僕は君がいいと思っている。君と一緒に参加したい。君を他の男性に見せびらかしたい。それだけの価値が君にはある」
 フレドリックは真剣な眼差して彼女を見つめた。

「嬉しい」
 マリアも一口飲む。相変わらず、苦い。
 それはマリアにとって、今までの彼女の生き方を表しているような苦さだった。

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