堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
「でもね、私。残念ながら、そういった貴族様が集まるようなパーティに着ていけるようなドレスを持っていないの。昔はあったのだけれど、今はこれが精いっぱいなのよ」

 自嘲気味に笑った。華やかな現実は過去のこと。今は、夢の中の世界に生きている自分。

「それも素敵だけれど。パーティなら別なものがいいな。だから、僕が贈ろう。君に似合うドレスを」

「フレディ、あなた。ドレスを贈る意味をわかっているの?」
 マリアのそれに対して、フレドリックは笑顔を浮かべるが何も言わない。

「あなたを信じてもいいの?」
 マリアは尋ねた。
「まるで、誰かに裏切られたようなことがある言葉だね」

「昔のことよ」
 そこでマリアは、ワインを一気に飲み干した。そう昔のこと。今とは違う。だから期待してもいいのかなとマリアは思うのだが、彼を信じきれない自分もいる。
 葛藤。
 だが、彼ならこの夢の中の世界から自分を救い出してくれるのかもしれないという淡い期待を込めて。
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