堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
「えっと」
 右手の人差し指を頬に当てる。
「あの。今、お世話になっているところがありまして。ですから、その、そちらにも聞いてみないと、ちょっと返事ができないのです」

 演劇部に入部となると、授業が終わってからの活動になるだろう。つまり、帰りが遅くなる。その帰りが遅くなるということをリガウン家で許してくれるかどうか。
 そして、もう一つの確認先は騎士団の方だ。今回の任務に、部活動まで含まれていただろうか。
 任務。それは卒業後に騎士団へ入団するような優秀な生徒を見つけ出すこと、なのだが。

「ジェイミ。エレンさんの言うことも、もっともだ。彼女は留学生だし、滞在先の家庭の事情っていうのもあるだろう。そちらに確認しないといけないだろう」
 ジェイミはクリスをじっとりと睨む。その態度はわかっているわよ、と言っているようにも受け取れるし、目の前のご馳走をとりあげられてしまった子供のようのみ見える。

「エレンさん」
 クリスに呼ばれた。
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