堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
「エレオノーラ嬢か?」
 ジオベルトがそう思うのも無理はない。先日、素顔で会った時のエレオノーラと、今日、知的美人に化けたエレオノーラ。知っている人から見ても別人に見える。兄たちでさえそう思っているのだから。
 馬車の中でジルベルトが声をかけると、エレオノーラはふと表情を崩した。

「変ではありませんか? リガウン団長に似合うように、と思ってみたのですが」
 ちょっと頬を赤らめて、うつむきながらそう言うエレオノーラ。

「ああ、よく似合っている」
 実はジルベルト。エレオノーラが眩しすぎて、先ほどから直視できていない。直視できていないけれど、そう答えてしまう。

「あの、団長。団長のことはジルベルト様とお呼びしてもよろしいでしょうか」
 エレオノーラからの提案に。

「ジルでいい」
 どこに視線を向けたらいいかわからないので、少し視線を反らして答えた。恥ずかしすぎたので、口調が少し乱暴になったかもしれない、とジルベルトは思った。

「はい、ジル様。私のことはどうかエレンとお呼びください」
 だが、エレオノーラにはそう感じなかったらしい。にっこりと微笑んでそう言った。ジルベルトは口の中でエレンと呟きながらも、やはり彼女を見ることができない。

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