堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
 ちらり、と彼の方に視線を向けたマリーは口を開く。
「そう? だって、あの窃盗団の件があったでしょう。私たちも目をつけられたら大変だと思って、自粛していたのよ」
 マリーはオレンジ色の液体を一口飲む。氷がカランと音を立てた。彼女の喉元がゴクリと動く。それすら、男にとっては気になる行為。

「でも、相変わらずいい女だね。マリーは」
 アンディはそっとマリーの腰に手を回した。細い腰。力を入れたら折れるかもしれない。
 男の広い胸板が、マリーの頭に押し付けられた。マリーはそれを拒否するようなこともしない。されるがまま。

「相変わらず、あなたは手が早いのね。これではのんびりとこれを味わうことができないじゃないの」
 マリーはグラスをかかげ、グラス越しに男を見上げた。

「だったら、俺を味わってみるか?」
 男はゆっくりと唇を舐める。その彼の唇に、彼女は右手の人差し指を当てた。

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