花笑ふ、消え惑ふ


「なにしてやがる」

「片付けを……すこし散らかっているようなので、」

「てめぇは俺の小姓(こしょう)じゃねぇぞ」



小姓──身の回りの世話をする人のことだ。


たしかに流は土方の小姓ではないが、ここでお世話になって、さらには部屋まで使わせてもらう身ではある。




「大丈夫です。わたし、お片付けには慣れてますから!」


「そういう問題じゃねーよ。いいから、その手を止めろ」


ため息まじりの低い声だった。


土方が流の腕をつかんで止めさせた。


流はそれにびっくりして、この人は本当に怖くないのかと目を丸くする。




「土方さん……?」

「履き違えるな」

「え?」


「ここは島原でも、てめぇのいた吉原でもねぇんだぞ」


「わかってます、それは。……ここは、あなたたちの屯所ですよね?」

「わかってんなら、余計なことすんじゃねぇ」



どういう意味かわからず、流は混乱するようにつかまれている手を見おろした。


強い手だった。流の能力なんかすっかり忘れてしまっているかのように。


こんなにも力強く、誰かにつかまれたのは初めてだった。




────なんでだろう。


土方を怖いと思う気持ちがなくなったわけじゃない。


でも、不思議といやな感じはしなかった。


< 57 / 182 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop