花笑ふ、消え惑ふ
「なにしてやがる」
「片付けを……すこし散らかっているようなので、」
「てめぇは俺の小姓じゃねぇぞ」
小姓──身の回りの世話をする人のことだ。
たしかに流は土方の小姓ではないが、ここでお世話になって、さらには部屋まで使わせてもらう身ではある。
「大丈夫です。わたし、お片付けには慣れてますから!」
「そういう問題じゃねーよ。いいから、その手を止めろ」
ため息まじりの低い声だった。
土方が流の腕をつかんで止めさせた。
流はそれにびっくりして、この人は本当に怖くないのかと目を丸くする。
「土方さん……?」
「履き違えるな」
「え?」
「ここは島原でも、てめぇのいた吉原でもねぇんだぞ」
「わかってます、それは。……ここは、あなたたちの屯所ですよね?」
「わかってんなら、余計なことすんじゃねぇ」
どういう意味かわからず、流は混乱するようにつかまれている手を見おろした。
強い手だった。流の能力なんかすっかり忘れてしまっているかのように。
こんなにも力強く、誰かにつかまれたのは初めてだった。
────なんでだろう。
土方を怖いと思う気持ちがなくなったわけじゃない。
でも、不思議といやな感じはしなかった。