夜が明けぬなら、いっそ。




そちらも文句ありません───と。

そんな男達の皮肉で下衆な会話に、少年は怒りと吐き気でどうにかなってしまいそうだった。


そりゃあ孤児にとって、育ての親という存在は命より大切なものだ。

捨てられた身である自分達に優しくしてくれるのだから。


そんなの俺が一番よく知っていると、少年はぐっと拳を握った。



『実はですね、十鬼は売ろうと思っているんです』


『それは高く付くだろうな』


『はい。いずれは暗殺道具、しかも女となりますから、存分に価値はあるかと』



今あの子は6歳、だったらそれはいつだ…。

売られてしまうとするならば、早くて10歳で使われることだろう。


それまでに自分がもっと強くなって、誰にも気付かれないうちに戸ノ内を殺していればいい。

そうすればきっと、あの子は救われる。



“けいしゅ!”



あの子だけじゃない。

きっと探せば、同じような悲惨な境遇の子供はたくさんいるはずだ。


だけどあのとき出会えたのも何かの縁なのだろう。

だったら、救える命だけでも助けてあげたい。



『…戸ノ内…彦五郎、』



俺が必ずお前を殺そう。

その先で俺が恨まれようとも、少女の幸せがあると願って───。



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