夜が明けぬなら、いっそ。
「深呼吸、深呼吸。そもそも彼は小雪と歳も近いから友達みたいな感覚で話せば問題ないよ」
機密情報を与えてくれるように、男は慣れたものなのか小声で言ってくる。
こんなところを本人にでも見られていたらと思うだけで私は背筋が凍る思いだというのに。
「…そんな生意気なことを言っていたら、近いうち殺されるのではないですか」
「俺は心に決めた人にしか殺されてやらないと決めているんだ。それに、俺の首はそこまで安くはないからね」
先日のことを思い出すと、どこか複雑だった。
私はこいつを斬れなかったのだ。
運が良かったのか悪かったのか吐血に襲われ、初めての接吻を強引にも奪われ、気を失うように眠った記憶しか。
だから確実にあれは夢だと思いたい。
そう思うようにしている。
「…大丈夫、俺がついてるよ小雪」
ぽんっと肩に手を置かれて、不安と緊張から微かに震えている己の手を握って温めてくれる。
仄かに化粧が施されたとしても、やはりまだ私にはあどけなさが残っていた。
そんな落ち着かない日は今日だけの辛抱だと、何より吐血や咳に襲われてくれるなと。
その心配の方が大きい。