夜が明けぬなら、いっそ。
「…なら、俺の傍を離れてはいけないよ」
好きなだけ堪能すると、何事も無かったかのように話を戻される。
なんの話だ…なんて集中できない中でも適当に頷いておいた。
こいつの言葉は本当なのか嘘なのか分からないときがある。
表面では冗談として言っていることも、実際は本当なんじゃないかと思わせてきたり。
真実を言っているときは、逆にそれは何かを隠すためのまやかしではないのかと。
「あと、家茂くんの前で今のような顔をしては駄目」
「…どんな…顔だ、」
「…それは俺だけが知っていればいいから、小雪にも秘密」
軽い笑いに代わって咳が出てしまうと、夢が現実に戻ってしまうような焦燥に駆られる。
前よりもまた汗が多くなった。
身体が火照るようになった。
だけどまだ生きていたいと、少しでも考えてしまっている自分。
本当は仇のことなんかどうでも良くなっていた。
「それにしても…お前の縁談相手はすごかったな」
「さすがにあれはね、俺は確かに優しいけれど許容範囲ってのがあるから」
「…病を患ってる女よりはいいと思うがな」
弱音のような言葉をぽつりとつぶやけば、「俺は小雪がいい」なんて偽言を返された。