夜が明けぬなら、いっそ。




「…ん、うまい。うまいぞ景秀!小雪!こんなにうまい天ぷらを食べたのは初めてだ!」


「え、いや…たぶん茂くんがいつも食べてる方が格段に美味しいと思うよ」


「そんなことはない!全然違うぞ!!」



一口、たったのそれだけで立ち上がるほどに美味しかったらしい。

周りはざわざわと逆に不審がる中でも、その微笑ましさにクスクスへと変わる。


と、その青年は噛み締めるように言った。



「…そうか。誰かと食べるからこんなにもうまいのか」


「え…?」


「いつも僕は…1人で食べている」



豪華な食事、きらびやかな酒、望めば芸子や女も与えられるだろう、彼の立場は。

それでも1人で食べる食事の孤独は何よりも寂しいものだということ。


嬉しさや美味しさを分かち合う楽しさが無ければ、そんなのはただの栄養補給にしかならない。



「ありがとう。景秀、小雪」


「……だったら、明日からも…一緒に食べよう」



そんな提案をつぶやいていたのは、他でもなく私だった。


せっかく住まわせてもらっているんだから。

逆にどうして今まで気づいてやれなかったのかと、少し悔しさもあった。



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