オトメは温和に愛されたい
***

「あ、あのっ、逢地(おおち)先生……」

 逢地(おおち)先生に抱きしめられたままだったので小さく身じろぎすると、彼女がやっと腕の力を緩めてくださった。

 私には奏芽(お兄ちゃん)しかいないけれど、優しいお姉さんがいたらこんな感じなのかなってふと思う。

「あ、ごめんなさい。つい嬉しくて……私ったら」
 私の声かけを、抱きしめてしまったことへの抗議だと思われたのか、逢地(おおち)先生が頬を染めて申し訳なさそうな顔をする。

鳥飼(とりかい)先生、可愛らしいから……つい」

 そんなことを言われたの、初めてだ。

 いつもカナ(にい)にはチンチクリンだと揶揄(からか)われまくりだったので、何だかくすぐったい気持ちがしてしまう。

 逢地(おおち)先生につられて赤くなってから、それでも一生懸命言葉を紡いだ。

「さっき言おうとしたことの続きなんですけど……」

 2人、床にしゃがみ込んだままで話し続けるのもおかしいので立ち上がると、「す、座りませんか?」と声をかける。
 私を見上げてハッとしたお顔をなさった逢地(おおち)先生が「それもそうですね」と微笑んだ。

 逢地(おおち)先生、案外テンパると私より抜けちゃうところがあるのかも知れない。

 予期せず逢地(おおち)先生の可愛らしいところを発見できた私は、今まで以上に彼女に親しみを感じてしまう。

 だから余計に――。
 どうか私の勘違いでありますように、と祈らずにはいられない。

 各々テーブルを挟んで差し向かいに座り直すと、
「あの日の放課後……逢地(おおち)先生、はる……霧島(きりしま)先生と……用具倉庫のところで……その……何をなさってらしたんですか?」

 私にはアレ、温和(はるまさ)逢地(おおち)先生にキスをしようとしているように見えたのだ。

 逢地(おおち)先生からの返事が怖くて、心臓がバクバクしてしまう。

 逢地(おおち)先生は記憶をたどるように指先でちょんちょんと唇を何度かタップなさって…
「ああ、アレっ!」
 不意に何かを思い出したようにポンッと手を打った。

 私は逢地(おおち)先生の一挙手一投足にドキドキさせられてしまう。
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