オトメは温和に愛されたい
「あの日、鶴見(つるみ)先生と連れ立って帰って行かれた貴女を見て、私、物凄く嫉妬したんですけど……おあいこだったんですね。――本当にごめんなさい」

 逢地(おおち)先生のその言葉に、私は思わず顔を上げた。

「わ、私の方こそごめんなさいっ」

 私がとった、自分本位な行動を思い出して、心の底から反省した。

 思い返せば、温和(はるまさ)の後方、用具倉庫の前に立ち尽くしたままの逢地(おおち)先生は茫然自失と言った感じで、とても寂しそうなお顔をしていらした。

 私、あれは温和(はるまさ)との逢引を邪魔しちゃったからだと思っていたけど……違ったんだ。

 自分が他の女性(だれか)から同じことをされたらと思うとチクチクと胸が痛んで……。



「だからね、私、鶴見先生からお電話があった時、どうしても今回で勝負をかけなきゃ、鳥飼(とりかい)先生を出し抜かなきゃ!って思っちゃったんです。……それで、気がついたら校長先生や教頭先生をぜーんぶ飛ばして……霧島(きりしま)先生に電話、かけてしまってました。私の気持ちを全てご存知の霧島先生なら、助けてくださるに違いない!って」

 そこまで言って、「もしかしたらそれも……鳥飼先生を傷つけていたかも知れませんね。本当、自分のことしか考えられていなくて……ごめんなさい」

 そう言って深々と頭を下げていらした。

 恋をすると、いつも冷静そうに見える逢地(おおち)先生でも、こんなに一杯一杯になってしまうんだ。

 そう思ったら、私は逢地(おおち)先生のことを心の底から大好きだって思ってしまったの。

逢地(おおち)先生。これからも時々、こんな風に、恋のお話、一緒に出来たら嬉しいなって思うんですけど……如何ですか?」

 鶴見先生に少し怖いところがあると知っている私は、逢地(おおち)先生のことがちょっぴり心配でもあって。

(うまく行っている間ならきっと問題ないと思うんだけど……)

 そんなことを思いながら恐る恐る問いかけたら、一瞬瞳を見開かれた逢地(おおち)先生が、
「嬉しい! 大歓迎です!」

 にっこり笑って、包み込んだままだった私の手を、もう一度ギュッと強く握っていらした。

 鶴見先生、優しいお姉さんみたいな逢地(おおち)先生を泣かせるような真似をしたら、許さないんだから!

 カナ(にい)温和(はるまさ)が、私のために本気で鶴見先生を怒ってくれたのって、こんな気持ちだったのかな?

 今更だけど、そんなことに気付いた。
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