オトメは温和に愛されたい
「……もしもし」

 言うと、一瞬沈黙があって、すぐさま盛大な溜め息とともに
『このバカ音芽(おとめ)! 先に帰っとけって言っただろ!? 俺、フラフラ出歩けって言った覚え微塵もねぇんだけど?』
 って……温和(はるまさ)こそバカじゃん。

『しかも三岳(おとこ)と一緒とか、マジ有り得ねぇだろ!』
 とか……川越(かわごえ)先生と2人きりだった温和(はるまさ)に、そんなの言われる筋合いない。

 さすがにムッとして、
佳乃花(かのか)も一緒だし……。それに私、ひとりぼっちの家に帰りたく……なかったんだもん」
 絞り出すように不機嫌につぶやいたら、
『何で……』
 って聞かれて。

 私は温和(はるまさ)の鈍感ぶりに情けなくて泣けてきた。

 さっき、佳乃花(かのか)の前で散々泣いて、涙なんて枯れ果てたと思ってたけど……お酒飲んだからまた補充されたのかな。

温和(はるまさ)が……川越(かわごえ)セン、セとふたり(ふたっ)きりで……いなく、なっちゃっ、たからじゃん……。そ、ンなこともっ分か、っない……っ?」

 1人、何のフォローもされないままに取り残されてしまった私が、どんなに寂しくて不安だったか。

 温和(はるまさ)には分からなかったって言うの?

 泣きじゃくりながらそう言ったら、明らかに電話口で温和(はるまさ)狼狽(うろた)えたのが分かった。
 それだけで、私は不安だった気持ちがしゅーっとしぼんでいくのを感じた。
< 239 / 433 >

この作品をシェア

pagetop