オトメは温和に愛されたい
 喜多里(きたさと)先輩は、私が動けないのを拒否しないからOKなんだと判断したのかもしれない。
 耳に吹き込まれるようにもう一度「私ね、音芽(おとめ)ちゃんが好きよ」と言われて、胸の先端の敏感な突起を服越しにキュッとつままれて、いい知れぬ恐怖と、好きでもない人に身体を触られる不快感とに全身がゾクリと粟立った。

「せ、せんぱ、い……私っ、こういうの、よく分からな、……の、でっ。お願っ、放して……くださっ」

 イヤだと跳ね除けてしまいたいのに、私を捕らえている人が先輩だという引け目からか、私は強く拒絶が出来なくて。
 小さいころから相手が強気で来ると、萎縮してしまうところがあるのは自覚していたけれど、まさかそれがこんなところでも出てきてしまうなんて……。
 すくんで自由が利かなくなってしまった身体を震わせながら、ただただ危機感を覚えて一生懸命これ以上はやめて欲しいと訴える。

「もしかして……音芽(おとめ)ちゃん、こういう経験ないの?」

 あんなに気に掛けてくれる幼なじみのお兄さんがいるのに?

 嫣然(えんぜん)と微笑まれて、一生懸命肯定する。
 あるわけない。
 というか、そもそも“こういう経験”って何?
 
 身動きができないまま硬直してしまった私のあごに喜多里先輩の白くて細い指がかかる。

「じゃあ、私とのキスが音芽(おとめ)ちゃんのファーストキスになっちゃうのかな?」

 上向かされた唇に、喜多里先輩の唇が重なって……嫌だと思うのに相手のなすがままにされてしまう自分がすごく惨めで。

 悲鳴を上げたくて小さく開けた唇の隙間から、喜多里先輩の舌が入り込んできて――。
 私は一気にパニックになった。

 大好きなハル(にい)以外の人にこんなことをされてしまった私なんて、消えてしまえばいいって強く強く願った。
 すべてが悪夢にしか思えなくて、ギュッと目を閉じて息を詰めた私は、息苦しさに引っ張られるように、そのまま暗い暗い闇の底へ落ちていった――。
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