オトメは温和に愛されたい
「で、さっきの返事は?」

 温和(はるまさ)が後ろから私の手を取って、左手の薬指を意味深に撫でさする。

「ひゃぁ、んっ」

 指をそろりと撫であげられただけなのに、何故かゾクッとして変な声が出てしまった。

 は、恥ずかしいっ。
 その思いに呼応するように、耳が腫れぼったいくらい熱を持ったのが自分でも分かった。

「可愛いな、音芽(おとめ)。耳まで真っ赤じゃん」

 佳乃花(かのか)一路(いちろ)が一緒にいた時は私の方を見ようとさえしなかったくせに。
 2人きりになった途端、これ。

温和(はるまさ)ってジキルとハイド?」

 恥ずかしさを誤魔化すようにそうつぶやいたら、「は? なんだよそれ」と不機嫌そうに言われてしまった。

「だっ、だって……佳乃花(かのか)と一路がいた時は……そんな甘えてこなかったよ?」

 未だ薬指を撫で続けている温和(はるまさ)の手に右手を重ねて動きを封じると、私は思い切って後ろを振り返る。
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