オトメは温和に愛されたい
 私の言葉に、やっと温和(はるまさ)の手から力が抜ける。
 私は温和(はるまさ)の手を振り解くようにしてその場を立ち去った。
 今はとにかく……ここに――温和(はるまさ)のそばに居たくない。


***


「ってことがあったの……。酷いと思わない?」

 家に帰って、干していた洗濯物の中から新しいショーツを外すと、それを身につけて、ついでに箪笥(たんす)から新しい服を取り出した。
 温和(はるまさ)から借りた服をさっさと脱いで、部屋着にしている薄手のシャツワンピに着替える。
 ズボンは膝の傷口に当たると痛そうだったから、それを選んだんだけど、結局裾が触れることに変わりはなくて。

(イタ)……」

 温和(はるまさ)のところで手当てしてもらっておけば良かった、と少し後悔する。
 でも、あんなことされて、あの場にいられるほど私だって鈍感じゃない。
 温和(はるまさ)が意地悪なドS男に成長していることは知っていたけれど、まさか腹いせであんなことまでする奴だなんて思わなかった。

(見損なった!)

 心の中で散々一人悪態をついたけれど、何だかモヤモヤが収まらなくて。

 体が冷え切ってしまっているから、悪いことばかり考えてしまうのかもしれない。

(とりあえずお風呂入ろう……)

 傷口に()みるかもしれないけれど、少し我慢すればきっとそこは慣れると思う。
 お風呂の操作パネルをいじって、いつもより一度だけ設定温度を下げて、お湯張りボタンを押す。
 熱めのお湯が好きだけど、滲みることを思うと少し低めの方がいいかな?と思って。

 お湯張りが終了するまでの間、私はどうしても収まらない気持ちを、親友への電話で解消することにした。
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