オトメは温和に愛されたい
音芽(おとめ)、お前、今の……もう1回!」
 ギュッと手を握られて顔を覗き込まれて、私は「何が、何が!?」と思ってしまう。

奏芽(かなめ)、こいつはもう俺んだ。気安く触るな」

 温和(はるまさ)がカナ(にい)の手から私の手を引き抜いてから、耳元に唇を寄せる。

「奏芽のやつ、お前にお兄ちゃんって呼ばれたのが嬉しかったんじゃね?」
 って。

「……え?」

 キョトンとしてつぶやいたら、
「奏芽、昔っからよく、お前の兄貴は自分だけのはずなのに音芽が俺と区別して“カナ(にい)”としか呼んでくれねぇ、ってぼやいてたんだよ。――知らなかっただろ」
 ってニヤリとされた。

「要らんことはよく言うくせにそういうのは言わねーんだよ、()()()()()は」

 言って、クスクス笑う。

「ハル、お前……余計なこと言い過ぎ」
 カナ(にい)温和(はるまさ)の鼻をムギュッとつまんで、私から視線をそらす。

「ね、いま温和(はるまさ)が言ったこと、本当……なの?」

 恐る恐る聞いたら、「音芽(おとめ)、ハルのことはもう“ハル(にい)”って呼ばねーんだろ?」ってどこか決まり悪そうに私を睨んできて。

「うん……」

 その声にうなずいたら、「だったら俺のことも普通に“お兄ちゃん”でよくないか?って思っただけのことだ。深い意味はねぇよ」ってそっぽを向くの。

 カナ(にい)、それ、すごく気にしてたのね!?

 気づかなくてごめんなさい、って思ったけれど……長い間「カナ(にい)」って呼んできた癖は一朝一夕では抜けそうにない。

 カナ(にい)、ごめんね?
 でも、これからはなるべく「お兄ちゃん」って呼ぶように努力するから。だから許して?
< 346 / 433 >

この作品をシェア

pagetop