オトメは温和に愛されたい
 温和(はるまさ)が手際よく消毒後の両足に、軽くガーゼを当てて、そこにネットタイプのカバーをかけてくれるのをぼんやり見つめながら、鼻の奥がツンとしてきて思わず視線を逸らす。

 ダメダメ、また泣いちゃう。

 必死に別のことに気持ちを集中させようと、テレビの音に耳を澄ませる。朝のワイドショーは、ちょうど星座占いのコーナーをやっていて、私の魚座の今日の運勢は、予想に反して一位だった。

「ほら、出来たぞ。立って歩いてみろ」

 言われて数歩歩いてみると、打ち身からの痛みはともかくとして、傷口が擦られる痛さはなくなっていた。

「あ、ありがとう、痛くなくなった」

 言ったら、「嘘はつかなくていい。膝、腫れてんだろ」と言われた。

 ひゃー、打ちつけた痛みがあるの……バレて、る?

「あ、あのっ……」

 慌てて言葉をつむごうとしたら、「今日は車で送り迎えしてやる。支度(したく)が済んだらそこの壁、ノックしろ」と言われてしまって。

「あ、でも……」

 申し訳ないしっ、と続けようとしたら、立ち上がった温和(はるまさ)が、すれ違いざまにボソリと「昨日は悪かった」と、小声でつぶやいた。

「え?」

 聞き間違えかと思って思わず聞き返したけれど、

「7時までには出られるようにしろよ」

 すぐさま不機嫌そうにそれだけを言って、出て行ってしまう。

 ――悪かった。

 ねぇ、温和(はるまさ)。今、確かにそう言ってくれた、よね?
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