オトメは温和に愛されたい
 それを誤魔化すように、

「あ、あのっ……荷物、有難う。……ございましたっ」

 机上に置かれたカバンを、引き出しに仕舞いながら、隣の席の温和(はるまさ)に恐る恐るお礼を言う。
 まだ週末気分が抜けきっていなくて、またしても危うく敬語を忘れそうになってしまった。
 あーん、あとで叱られちゃうかも……。

「……鳥飼(とりかい)先生、今日は極力歩かないように過ごしてください。困った時は声かけてもらったら、俺がすぐサポートしに行きますので、遠慮なく言うように。朝礼で怪我のことと一緒にその旨話しますが、異論はないですね?」

 口調は丁寧だけど、黙って俺の言うことを聞け、と言われているようで、私は「はい」と首肯(しゅこう)しながらも、心の中で苦笑する。――ああ、やっぱり温和(はるまさ)温和(はるまさ)だなぁーって。

 温和(はるまさ)のその言葉に、私の正面の席に座る鶴見先生がガタッと勢いよく立ち上がると、「あ、あのっ。それだったら僕のことも遠慮なく頼ってください! すぐ駆け付けますのでっ!」と言ってくださって。

 温和(はるまさ)と違って威圧感のない言い方に、自然頬がほころんだ。

 温和(はるまさ)も、鶴見先生も私の受け持ちクラスの両隣の教室。
 鶴見先生は、ほんわかしていて何となく温和(はるまさ)より頼みごとをしやすいし、必要ない時にはさっきみたいに割とスパッと断りやすいから、そう言ってもらえると助かるかも。
 温和(はるまさ)は怖いし、もしもの時は鶴見先生を頼っちゃおうかな。

「あ、あのっ、すごく助かりま――……」

 私がにっこり笑って二人に――と言うより主に鶴見先生に――頼りにしてますオーラ全開のお礼を言おうとしたら――。
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