オトメは温和に愛されたい
***

 心ここに在らずでぼんやりしているうちに、車は商店街の中にある、とあるコインパーキングに入った。

「着いたよ」

 窓にずっと張り付いていた私に、背後から鶴見(つるみ)先生の声がかかる。私はその声にハッとして、彼を振り返った。

「――あ、はい」

 着いたよ、の言葉に何と答えたらいいのか分からなくて、迷った挙げ句、出たのはそんな気のないセリフで。

音芽(おとめ)ちゃん、さっきからずっとダンマリだけど……何か考えてる?」

 心のうちを見透かすみたいにじっと目を見つめられて、私は思わず視線を逸らせるようにうつむいた。

 そうしてそのまま、絞り出すように声を出す。

「つ、……大我(たいが)さんの告白に……どうお答えすべきか……ずっと考えてて……」

 言えば、「うん、さっきの感じからすると、期待してもいいのかなって思ってたりするんだけど……どうかな?」と先手を打たれてしまった。

「え……?」

 覚悟を決めたつもりだったのに、そんな風に決めつけられてしまうと、逆に決意が鈍って……。そんな気持ちが思わず声に出てしまった。

 途端、鶴見先生に目を(すが)められてしまう。

「あ、あの……と、とりあえず歩きながらお話しませんか?」

 何となく密室でこのまま、というのは怖くなって……私は(うかが)うように鶴見先生を見やる。

 彼が何も言わないのが怖くて、私は鶴見先生を見つめたまま、すぐに降りられるようにそっとシートベルトを外した。そうして寸の間、視線をそらしてドアの方を向いたら……。
 背後からギュッと抱きしめられて、私は身体がすくんで動けなくなってしまう。

 何でなの?

 別に暴力を振るわれたわけではないし、言葉で威嚇されたわけでもない。なのに……何故だか物凄く……怖い。
< 89 / 433 >

この作品をシェア

pagetop