オトメは温和に愛されたい
「ざーんねん。大我(たいが)ちゃん、一緒に食べないって〜」

 走り去っていくプレマシーを見送りながら、わざとらしく眉根を寄せるカナ(にい)を、私も温和(はるまさ)も無言で見つめた。

 まさかカナ(にい)が同性相手にあそこまでするとは思わなくて驚いたけれど、でも……案外お兄ちゃんらしいな、とも思ってしまって。

「あ、あのっ。カナ(にい)、ありがとう」

 鶴見(つるみ)先生がいなくなって、やっと温和(はるまさ)が腕の力を緩めてくれたので、私はカナ(にい)の方を向いてお礼を言った。

 そんな私にカナ(にい)は、怖い顔をすると「本当お前はバカだな! ホイホイ男について行って、なに簡単に泣かされてんだよ」と鼻をギュッとつまんでくる。

 そのつまみ方があまりに痛くて、思わず涙目になった私に満足したように、カナ(にい)が目を細めた。

 私は涙に潤んだ目でカナ(にい)をじっと見上げてから、「そういえばさっき、鶴見先生の耳元で何て言ったの?」と問いかけた。

 温和(はるまさ)も気になっていたみたいで「俺もそれ気になってた」と言って。
 カナ(にい)はそんな私たちを見て、「ああ、あれね。別に大したことじゃないよ」と前置きをしてから。

「犯すよ?って言っただけ」

 とんでもない告白をしてくれる。

 カナ(にい)が言うと冗談に聞こえないのが怖かった。
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