私を変えたのは、契約の婚約者。〜社長令嬢は甘く淫らに翻弄される〜
 私、水鳥川葉月(みとりかわはづき)はグローバル企業である水鳥川興産の社長の一人娘。いわゆる社長令嬢だ。水鳥川家は女系のようで、母も祖母も一人娘だった。代々、優秀な婿を取って、事業を繁栄させてきたという。
 二十四歳になった私もそろそろと言われながら、今現在は、父の会社の財務部で事務の仕事をしている。
 でも、名字から社長の娘であることは歴然で、みんなに腫れ物に触れるように扱われている。

(私にどんな態度を取っても、父は気にしないのに)

 当然仲良くしてくれる人もなく、内気な私は自分から人の輪に入っていくこともできず、どこに行っても私は孤独だと溜め息をついた。



「イ、イケメンがうちの会社にいる!」
「月曜から眼福だわ! 誰よ、あれ?」
「今日から赴任された真宮理人(まみやりひと)部長、二十八歳、独身。外資系証券会社からヘッドハンティングされてうちに来たらしいわよ」
「なに、その詳細情報!?」
「総務の子から聞いてたの。とんでもない有望株がうちに来るって」
「二十八で財務部長って、早くない?」
「財務部長は宇部さんのままよ。彼は専門職で専任部長なんだって」
「私、絶対狙う〜!」
「やめとけば? 秘書や受付嬢の取り合い必至よ」
「こわ〜。私は観賞用でいいわ」

 きゃいきゃいと騒ぐ賑やかな声が聞こえて、ふと顔をあげたら、財務部に入ってきた噂の彼と目が合った。
 みんなが騒ぐだけあってスラリと背が高く端正な顔立ち。左から右に流した前髪は目にかかりそうなくらい長くて、妙に目力がある。でも、目が合った途端、それがふっと緩んで細められた。
 ドキッとして、なにげなく視線を逸らす。
 
 彼は宇部部長に連れられて入ってくると、軽く会釈した。

「今日から一緒に働いてもらう真宮理人部長だ。部長と言っても、私がお役御免になるわけではなく、彼には専任部長として、投資信託部門に携わってもらう」

 ははっと笑って紹介した宇部部長のあと、再度会釈をして、真宮部長は挨拶を始めた。ずんぐりとしていてちょっと猫背の宇部部長の隣に立つと、姿勢がいい彼はよりいっそうスマートに見えて、女性達からほぅっと溜め息が漏れる。

「ご紹介に預かりました真宮理人です。シルバーブレイン証券でトレーダー、ディーラーに携わっていました。その知識を活かして、皆さんのお役に立てるよう励みますので、よろしくお願いします」

 シルバーブレインと言えば超大手の証券会社で、「超エリートじゃない?」「すげーな」とまたしてもさざなみが起きた。

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