逆プロポーズした恋の顛末


「今日、尽がなかなか帰って来なくて、ずっと連絡もなくて……わたしも、幸生も寂しかった。すぐには引っ越せないけれど、今度はわたしたちが会いに行く。むこうに戻ったら、こちらに来るのは難しいでしょ?」


一緒に出かけられなくても、いい。
一緒に食事をし、一緒に眠り、一緒の空間で過ごし、傍にいられるだけでも、十分だ。


「ああ。二週間分のしわ寄せが来るから、しばらくまともな休みは期待できないだろうな」


内科医になるべく再び研修中の尽は、独身でまだ若手ということもあり、当直勤務の割り当てが多めだという。


「お医者さんって、本当に……忙しいわよね」


のんびりした田舎の診療所でさえ、ひとりで切り盛りする所長に暇な時間なんてない。

市の基幹病院である立見総合病院には、こことちがってスタッフも大勢いるけれど、患者の数も多いし、症例も様々。忙しくない日なんて、ないだろう。


「でも、結婚したと言えば、多少は調整してもらえるかもしれない」

「……え。じ、……んっ!」


再開されたキスは、熱く、淫らで、もっと、と叫びたくなる。
このまま、ここで……と思った瞬間、幸生の声がした。


「えほんよむー」


二人同時に慌てて起き上がり、ドキドキしながら耳をそばだてる。
が、聞こえて来るのは平和な寝息だけ。


「……寝言かよ」

「……みたいね」

「絶妙すぎるタイミングだろ」


二人同時に、「はぁ」と大きな溜息を吐き、顔を見合わせて……笑ってしまった。


「……寝るか」

「……そうね」


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