逆プロポーズした恋の顛末
尽は、家族三人で住むために、近隣の保育園や幼稚園、英会話教室なども調べてくれている。
わたしの後任も、見つかった。
わたしと入れ替わりで、結婚を機に辞めた元事務員の子が、離婚して子連れで実家に戻って来るそうで、再び診療所で働くことになっている。
保育園にも、幸生を近々転園させると話してある。
残るは荷造りだけ。
しかし、持っていくものと捨てるものを選り分ける中、幸生が赤ちゃんだった頃に着ていた服やらお気に入りだったおもちゃを手にすると、つい懐かしい思い出に浸ってしまって、なかなか進まない。
一か月もあれば引っ越しの準備は整うと思っていたのに、このままではいつまで経っても引っ越せない。
「まあ、いざとなれば、とりあえず全部箱に詰めて送ってしまえばいいさ」
「最終的に、そうなりそうです」
顔を見合わせて笑い合ったところに、電車が到着するというアナウンスが流れ、幸生が目を輝かせてわたしの手を引く。
「ママ! 電車、来るよ!」
「そうね。もう行かないと……所長、送っていただき、ありがとうございました」
「帰りも迎えに来るから、連絡しなさい。きっと、土産をたくさん持たされて、大荷物になるだろうから」
「……だといいんですけれど」
結婚するのに親の許可はいらないと言っていた尽だが、一応、両親にはわたしたちのことを報告したらしい。
あちらへ戻った翌日、彼の両親がわたしと幸生に会いたがっていると連絡があり、今回の滞在中に、顔を合わせることになっている。
いずれは、と思っていたから、願ったり叶ったりだ。
ただ、そこに彼の祖母――わたしと尽の仲に反対していた彼女も同席する可能性が高いとなると……不安を覚えずにはいられない。
所長は、そんなわたしの不安を見抜いたのだろう。
大きな手で、知らず力が入っていたわたしの肩を軽く叩いた。
「りっちゃん。尽は、わたしに似て頑固だから、手を焼くこともあるだろう。だがね、周りが何を言おうとも、自分で決めたことを貫く意志の強さ、大事なものを守れる強さを持っている。だから、信じてやってほしい」
「……はい」
「なあに、案ずるより産むがやすし、だ。大丈夫だよ」