逆プロポーズした恋の顛末


そのひと言で、胸の奥につかえ、頑なになっていたものがふわりと解けた気がした。

ほかの誰でもない、四年前にわたしと尽の仲を否定した彼女が言ってくれたからこそ、意味のある言葉だった。

家族になるために、必要な資格があるわけではない。

けれど、こうして認めてもらえたことが、嬉しかった。
いまのわたしでいいのだと言ってもらえたことが、嬉しかった。

尽と幸生とわたし、三人で家族として暮らす準備を進めながらも、わたしは尽に相応しいのか。尽にとって、わたしと結婚するメリットはあるのか。心のどこかで、ずっとそんな疑問を抱いていたから。


「ママ!」


ぐいっと手を引っ張られて見下ろすと、幸生があおむしの絵がついたハンカチを差し出していた。


「……ありがとう、幸生」

「ごめんなさいね? 幸生くん。ママを泣かせてしまって……」


謝る夕雨子さんに、幸生はぶんぶんと頭を振って否定する。


「ちがうよ! パパが言ってたよ。嬉しいときも、涙が出るんだって!」

「よくわかったわね? 幸生。そうよ。ママは、とっても嬉しいの。ありがとうございます、夕雨子さん」

「こちらこそ。わたしはどうしても謝るのが苦手でね……。でも、人生で一度くらいは、素直に謝りたいと思っていたの。だから、最期に願いを叶えさせてくださって、ありがとう」


そう言った夕雨子さんの表情は、晴れやかで、けれどそのまなざしはどこか物悲しくて、胸が詰まる。

何も言えずにいるわたしを「そんなしんみりした顔しないで」とたしなめて、夕雨子さんは幸生に微笑みかけた。


「お茶の準備ができたみたいね? お話はこれくらいにして、アップルパイ食べましょうか。幸生くん」

「うんっ!」

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