逆プロポーズした恋の顛末


(将来有望な年下エリート医師なんて……セフレですら、あり得ない選択なのに)


先週、ベッドの上で名乗り合ったついでに軽く自己紹介した尽は、二十五歳。やはり年下で、「医者」の卵だった。

そこまでは、予想通りだ。

が、まさか大病院の次期後継者という「おまけ」がついているとは思わなかった。

本人が、暴露したわけではない。

「立見」という名字に引っかかるものを感じ、店のママにそれとなく訊いてみたところ、この街の基幹病院である「立見総合病院」の跡取り息子だということが判明したのだ。

一介のホステスと大病院の次期後継者。
どこをどう取っても、二人の間に一夜限り以上の関係が生まれるとは思えなかった。

そもそも誰かと付き合う気はないと、彼がはっきり言っていた。

修羅場や慰謝料請求なんてハメには陥りたくないので、事後ではあるが「彼女」もしくは「婚約者」、はたまた「妻」がいるのか訊ねたところ、「そんなもの作っている暇はない」と返されたのだ。


(まあ、むこうが飽きるまで、楽しめばいいのかもしれないけど……)


決して面食いではないが、身体といい、顔といい、身体の相性といい(中身は置いておくとして)、ここまで完璧にぴったりしっくりくる相手にお目にかかったのは初めてだった。


それに。


抱き合っている間は、どうしようもない孤独や寂しさも、忘れられる。


傷の舐め合いのような付き合いは健全じゃないけれど、ピュアな恋愛をする年齢はとっくの昔に通り過ぎていた。

倫理に背いているわけでも、誰かを傷つけるわけでもないのなら、どんな付き合いをしようと本人たちの自由だろう。


(とりあえず……シャワーしなきゃ)


一晩放置すれば、回復に三日はかかる。
シャワーを浴び、入念なスキンケアを施し、きっちり髪を乾かして、といつものルーティンをこなす。

明日の「美」のための準備を整えて、電子レンジでブリトーを温める。


(はぁ、ようやく食べられるわ……)


冷えたビールをふた口飲み、ホカホカのブリトーにさっそくかぶり……つけなかった。
突然背後から伸びてきた手に、ブリトーごと手を持っていかれる。


「え」


何が起きたのかわからず、目を瞬く。
数秒後、目の前に戻ってきた手の中のブリトーは、半分になっていた。


「ちょっと、何するのよっ!」


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