逆プロポーズした恋の顛末

振り返って抗議するが、尽は肩を竦めて「腹が減ってるって言っただろ?」と言い放つ。

睨みつけるわたしを無視し、冷蔵庫から勝手にミネラルウォーターのペットボトルを取り出し、喉を鳴らして飲む。

上下する喉仏、ペットボトルを掴む手から腕、肩へと続く筋肉。引き締まった腰や割れた腹筋――。
下着一枚という姿の尽がさらす見事な裸体に、つい怒りも忘れて見入ってしまった。


「よだれ垂らして見てんじゃねーよ。金取るぞ?」


眉根を寄せ、こちらを睨む尽は偉そうで、ついからかいたくなる。


「いいわよ。いくら払えば、好きなだけ眺めていられるの?」

「は?」

「ついでに言うと、いくら払えば好きなだけ触らせてくれるの?」

「な……」


マジマジとわたしを見つめる尽の顔が、みるみる赤くなる。

その様子に思わず「カワイイ」と言いかけて、やめた。
いくら年下でも――年下だからこそ、言ってはいけない言葉がある。


「恥ずかしがることないじゃない。自分はわたしに触りまくってたくせに」

「……うるせぇ」


ぼそっと呟いた尽は、再びわたしの傍までやって来ると、ブリトーを奪い、残り半分を食べてしまう。


「あぁっ! それ、一番好きなヤツなのにっ!」

「こんな時間に、こんなもん食うのは、あきらかにカロリーの摂りすぎだ」

「尽には、関係ないでしょっ!?」

「医者として、身体に悪いものを食べるのを見過ごせない」

「わたしは十分、健康よっ!」

「いまは健康でも、将来健康を損なうリスクがある」

「未来より、現在が大事」

「現在を大事にすれば、未来も大事にすることになる」

「だから、好きなものを食べるのよ。思い残したくないもの」

「死ぬことを前提に話すな!」


尽の険しい表情と声に、ハッとした。


「……ごめん」
「……悪い」


二人同時に呟く。

気まずい沈黙は、尽が断ち切った。


「シャワー、借りる」

「それは構わないけど、着替えは……」

「持ってる」


突発的な事態で、家に帰れなくなることもしょっちゅうなのだろう。
尽は、バックパックから下着とTシャツを取り出し、バスルームへ消えた。


(やっぱり、何かあった……のよね)


毎日、医師として命と向き合っているのだ。
生死にかかわることを聞き流せないのもわかる。

だが、普段からあんな風に、軽口に過剰反応するとは思えない。

彼を慰められるなんて自惚れてはいないが、辛いことや苦しいこと、けっして楽しいことばかりではない「日常」を一時でも忘れてくつろいでもらえるよう、お客さまをもてなす。

――それが、ホステスの仕事だ。

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