逆プロポーズした恋の顛末


「こんなやり方、強引すぎるのは承知の上だ。しかし、こうでもしないと、りっちゃんは尽と会う決心がつかないんじゃないかと思ってね。百聞は一見に如かず。尽も、幸生くんを見れば誰の子か即座にわかると思った」

「…………」

「それにしても……つくづく、鈍い自分が情けないよ。京子(きょうこ)ママが教えてくれなければ、ずっと気づけなかったかもしれない」


しょんぼりした様子の所長の口から飛び出した、思いがけないひとの名前に驚いた。


「京子ママ、ですか?」


京子ママは、所長と並ぶもう一人の大恩人だ。

彼女が昔『Fortuna』に居た頃のお客さんだった所長に連絡を取り、ワケアリのわたしを雇ってくれるよう頼み込んでくれたのだ。

その後も、出産祝い、誕生日やクリスマスなど、幸生へプレゼントを贈ってくれている。

足を向けては寝られないほど世話になった人だけれど、幸生の父親が誰なのか一切話してはいないし、京子ママからも、所長が尽の祖父だと聞いた覚えはない。


「京子ママが、わたしにりっちゃんを預けたのは偶然だよ。でも、最近になって、りっちゃんと尽が一緒にいるのを見たという話を聞いたと、電話をくれたんだ」

「見たって……」


わたしと尽が一緒にいるところを目撃した人なんて、本当にいるのだろうか。

会うのはいつもわたしの部屋。
二人一緒に行動したのは、『Adagio』で出会ったあの夜だけだ。
それ以降は、コンビニにすら連れ立って行ったことがない。

首を傾げるわたしに、所長は懐かしい人物の名前を挙げた。


「昔、りっちゃんをモデルにして写真を撮った子がいただろう? 偲月(しづき)ちゃんとか言う……」

「写真……あっ!」

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