逆プロポーズした恋の顛末

わたしが住んでいたアパートのお隣さんだった、ある女の子の顔が浮かんだ。

尽と別れる決心をする少し前。
彼女のカレシが、ルームシェアしていた友人のイザコザに巻き込まれた彼女を庇って怪我をし、わたしの部屋に来ていた尽が応急処置をして立見総合病院へ連れて行く、という一件があった。

その後、京子ママの店で思いがけず再会し、コンテスト用の写真でモデルになってほしいと頼まれたのだ。

迷惑がかかる親類縁者もいないので快諾したけれど、コンテストの結果を聞く前に、わたしはこの町へ引っ越して、彼女とはそれきり没交渉。コンテストの結果も知らない。


「彼女が店に遊びに来た時に、京子ママが持っていた幸生くんの写真を見て、尽に似ていると言い出したらしい」

「よく、わかりましたね。そんなに深く関わっていないのに」


彼女は、いかにもそういう仲だと言わんばかりのわたしたちの恰好を目撃していたが、よく四年も前のことを覚えていたものだ。


「彼女はカメラを仕事にしているから、ひとの顔はよく覚えているらしい。りっちゃんを撮った作品で賞をもらい、いまでは注目の若手写真家の一人と見做されているそうだ」

「プロになったんですね、彼女」


出会った当時、彼女はまったくの無名だった。
努力と経験を積み重ね、濃密で、充実した四年間を過ごした結果なのだと思うと、妬ましくも羨ましい。
わたしには、自慢できるような能力も才能も、学歴もないし、夢もない。

いまも、昔も。
四年前と変わらず、尽の隣に相応しい人間ではない。


「なあ、りっちゃん。りっちゃんが、ひとりで幸生くんを育てようと思ったのは……もしかして、誰かに別れるよう言われたせいじゃないかね?」

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