逆プロポーズした恋の顛末


長い沈黙に耐え切れなくなったのは、わたしが先だった。


「ねえ、何とか言ったら?」

「……こんな時に、お世辞はいらねぇだろ」

「お世辞じゃないわよ。本物のイイ男も、本物のロクデナシも、山ほど見て来たわたしが言うんだから、素直に信じなさいよ」


幸生によくしてやるように、その背中をポンポンと叩けば、尽は小さく息を吐いて、呟いた。


「苦労するとわかっていながら、それでも幸生を産んでくれたこと……感謝している」

「あのね、尽。確かに、幸生を育てるのは楽じゃないし、大変だけど、苦労だなんて思ったことないわ。むしろ、わたしの方こそ感謝してる。わたしに幸生を……家族をくれて、ありがとう」


いろんな想いを凝縮した尽の言葉が、いくら考えても見つけられなかった答えを教えてくれた。

尽に伝えたかったことは、あの時の事情でも、言い訳でもなくて、わたしに幸生という宝物をくれたことへの感謝だった。

母も、祖母も、顔すら覚えていない父も亡くしたわたしには、幸生が唯一の家族だ。


「やっぱり……律は、イイ女だな」


尽が、笑みを含んだ吐息を漏らす。


「いま頃気づいたの?」

「いや。初めて会った時から、わかってた」

「あら、奇遇ね。わたしも、初めて会った時から、尽がイイ男だってわかってたわよ?」

「見え透いた嘘吐くなよ」

「嘘じゃないわよ。プロポーズしたでしょう?」

「あれは、俺をからかってただけだろ」

「ひとの真剣なプロポーズに対して、何て言い草よ!」


バシッとその背を叩くと、尽がくつくつと笑う。
震えが触れ合った場所から伝わり、つられてわたしも笑ってしまう。

張り詰め、重苦しかった空気は和らぎ、抱き合う温もりが心地いい。

四年経っても、馴染んだ温もりは忘れないものなのだろうか。
それとも、尽だから懐かしいと思うのだろうか。

いつまでもこうしていたいという気持ちに駆られたが、尽はゆっくり身体を離し、わたしと向き合うなり、真剣な面持ちで予想もしていなかった台詞を口にした。


「結婚しよう」

< 78 / 275 >

この作品をシェア

pagetop