逆プロポーズした恋の顛末
長い沈黙に耐え切れなくなったのは、わたしが先だった。
「ねえ、何とか言ったら?」
「……こんな時に、お世辞はいらねぇだろ」
「お世辞じゃないわよ。本物のイイ男も、本物のロクデナシも、山ほど見て来たわたしが言うんだから、素直に信じなさいよ」
幸生によくしてやるように、その背中をポンポンと叩けば、尽は小さく息を吐いて、呟いた。
「苦労するとわかっていながら、それでも幸生を産んでくれたこと……感謝している」
「あのね、尽。確かに、幸生を育てるのは楽じゃないし、大変だけど、苦労だなんて思ったことないわ。むしろ、わたしの方こそ感謝してる。わたしに幸生を……家族をくれて、ありがとう」
いろんな想いを凝縮した尽の言葉が、いくら考えても見つけられなかった答えを教えてくれた。
尽に伝えたかったことは、あの時の事情でも、言い訳でもなくて、わたしに幸生という宝物をくれたことへの感謝だった。
母も、祖母も、顔すら覚えていない父も亡くしたわたしには、幸生が唯一の家族だ。
「やっぱり……律は、イイ女だな」
尽が、笑みを含んだ吐息を漏らす。
「いま頃気づいたの?」
「いや。初めて会った時から、わかってた」
「あら、奇遇ね。わたしも、初めて会った時から、尽がイイ男だってわかってたわよ?」
「見え透いた嘘吐くなよ」
「嘘じゃないわよ。プロポーズしたでしょう?」
「あれは、俺をからかってただけだろ」
「ひとの真剣なプロポーズに対して、何て言い草よ!」
バシッとその背を叩くと、尽がくつくつと笑う。
震えが触れ合った場所から伝わり、つられてわたしも笑ってしまう。
張り詰め、重苦しかった空気は和らぎ、抱き合う温もりが心地いい。
四年経っても、馴染んだ温もりは忘れないものなのだろうか。
それとも、尽だから懐かしいと思うのだろうか。
いつまでもこうしていたいという気持ちに駆られたが、尽はゆっくり身体を離し、わたしと向き合うなり、真剣な面持ちで予想もしていなかった台詞を口にした。
「結婚しよう」