逆プロポーズした恋の顛末
ごまかそうとしたわたしを見据え、山岡さんはきっぱり言い切った。
「立見先生がどんな顔してりっちゃんを見ているか、気づいてないの?」
「どんな顔、でしょうか?」
尽とは、仕事中は接することがほとんどない。
だから、まったくもって心当たりがなかった。
「見てるこっちが切なくなって、うっかり惚れちゃいそうになる顔よ」
「…………」
「あんな極上の男、滅多にいるもんじゃないわ。わたしなら、かじりついて、しがみついてでも、絶対に逃さないわね。りっちゃんたちを迎えに来たんでしょ? 迷わず、あの広くて逞しい胸に飛び込んじゃいなさいよ。自分の気持ちに嘘を吐いても、誰のためにもならないし、誰も幸せにはなれないわよ?」
「そう、でしょうか」
わたしたちの幸せと尽の幸せが、同じところにあるとは思えなかった。
わたしと幸生を選ぶことで、尽が失うものは確かにある。
しかし、山岡さんは呆れ顔で首を振る。
「わかってないわねぇ……。好きな人には、幸せでいてほしいと思うでしょ? つまり、りっちゃんが幸せなら、りっちゃんが大好きな幸生くんも、立見先生も幸せ。幸生くんと立見先生が幸せなら、二人を大好きなりっちゃんも幸せ。何も難しいことなんかない。簡単なことじゃないの」
「でも、わたしと尽とでは、いろいろと釣り合いが」
「いろんな家庭があって、いろんな事情があって、いろんな家族がいるのは当たり前。歪でも、不格好でも、その家族らしい形なら、それでいいのよ。すべきとか、じゃないといけないとか、そういう思い込みは捨て去って、素直な気持ちで向き合うの。そうすれば、おのずと幸せになれる。バツが三つもついてる人生の大先輩が言うんだから、まちがいないわ」
「えっ」
山岡さんと旦那さんのオシドリ夫婦ぶりを知っているだけに、まさか再婚だなんて信じられなかった。
「一応言い訳しておくと……わたしにまったく責任がないとは言えないけれど、浮気したの元ダンナたちの方だからね?」
「三回とも?」
「ええ。さすがに、もう結婚はいいやと思っていたんだけれど、いまのダンナのプロポーズに参っちゃって」
「そんなにステキなプロポーズだったんですか?」