逆プロポーズした恋の顛末
「ステキかどうかは微妙なところだわね。『君が一緒にいてくれるだけで、僕は幸せになれる』。そう言われたの。インフルエンザのワクチンを打つ前に、この世の終わりのような顔をして、泣きながらだけど」

「……ぐっ」

「ついでに言うと、わたしにひとめぼれしたのは、風邪をひいて解熱剤をお尻に注射された時。恐怖で泣いている彼の手を握って、優しく宥めてくれたからだそうよ」

「うっ……」


山岡さんと旦那さんは、かなり年が離れているとは聞いていたが、詳しいなれそめは聞いたことがなかった。


(わ、笑っちゃいけない……いけないけど、でもっ)

「無理せず笑っていいわよ?」


許しを得て、堪えていた笑い声を上げる。
わたしがひとしきり笑い、涙を拭っていると、山岡さんは優しい笑みを浮かべて、あり得ないことを言い出す。


「ちなみに、自分では気づいていないかもしれないけれど……立見先生が来てから、りっちゃんの表情がとても柔らかくなった。それに、すごくキレイになった」

「そ、そんなわけないです!」

「ある! 両想いなんだから、さっさとくっついちゃいなさい」

「でも、」

「でも、じゃなーい! しっかり、幸せ捕まえなさい!」


バシッと背中を叩かれて、気合いを入れられては、頷くしかなかった。

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