逆プロポーズした恋の顛末


「え……えっと、英語でしりとりは、まだ幸生には難しいんじゃない?」

「でも、おにいちゃん先生は、そうやってえいごをおぼえたって言ってたよ」

(尽―っ! 自分がやらないなら、言わないでよ! こっちは、英語から離れて久しいんだから!)


ホステス時代、外国人客の相手をすることもあったので、当時はそれなりに英会話もできたが、この四年の間に英語を使う機会など皆無だった。

サビついているどころか、風前の灯火。忘却の彼方、一歩手前だ。


「じゃあ、ぼくからね! りんごで、アップル!」


わたしの事情なんておかまいなしに、幸生はさっさと「しりとり」を始める。


「え、えっと……宝石で、る……ルビー」

「ハチで、ビー!」

「び……美しいで、ビューティフル?」

「おへやで、ルーム」

「む……お月さまで、ムーン!」

「あ、『ン』がついた! 早すぎるよー、ママ!」

「ごめん……。ママ、英語は苦手なの」

(ごめん、幸生。強制終了させて!)

「じゃあ、ぼくと一緒におにいちゃん先生におしえてもらおうよ!」

「そ、そうだね」

(この歳になって英語の勉強……いや、できた方がいいとは思うけど、でも、衰え切った記憶力では幸生についていけそうにないわ)


それでも、親の背を見て子は育つのだと思えば、「できない」「やりたくない」とは、言えなかった。

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