美しいもの
これはある時代の、あるところの話。


美しいものが好きな金持ちの男がいた。

彼は世界中から美しいものを取り寄せては集め、美しい物の噂を聞けばその場所へすぐさま向かった。

そのうち段々と彼は美の魅力に取り憑かれて感覚が歪んでいき、歪んだものこそが美しいと感じるようになった。


そして彼はすっかり変わり果てた。
闇のような衣に、灰のような色に変わった長い髪を軽くまとめ、顔は少々痩け青白く、若干落ちくぼんだ目は気だるげに開かれ、唇は血色が悪く口は歪んでいた。

「もっともっと…私のもとに美しいものを…!」

変わり果てた彼に近付く者はついに居なくなった。


美しいものを求めて彷徨い歩いていた彼の前に、誰もが振り返るような美しい娘が現れた。

「私は何事にも熱心で懸命な貴方様を、ずっとお慕いしておりました。どうか私をそばに置いて下さい。お一人になられた貴方様をお助けしていきたいのです…」

心配気に顔を歪めて男を想う娘だったが、男は全く気に留めず、娘を置いて行ってしまった。

「…全く。なぜ誰も理解しないのだ、歪んだものこそが美しいということを…。」


ある日、男のもとに一人の娘が現れた。

色とりどりの枯れ葉をまとわせた衣を着て、後ろ髪だけを頭巾に巻いて包み、片眼含む顔半分には隠れるように細長い当て布が何重かに巻かれ、唇には薄く紅がされていた。

「私は貴方様の感性に感銘を受けました。どうぞそばで見習わせて下さい。」

男から見れば娘はなかなかの美貌に見える。

男は喜んで娘を家に迎え入れた。
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