春夏秋冬《きせつ》の短編集
赤い着物と秋の風
五、六歳くらいの小さな女の子がたった一人で、いま私のいる公園の、私の前の方で遊んでいる。

私がふと気付くといたその子。

声は聞こえないけれど笑いながら、楽しそうに高い木から落ちる木の葉を追いかけて。

これだけ言うと普通の光景に見えるかもしれない。でも、その子は七五三みたいなキレイな赤い着物を着ておかっぱで、全体的に半透明。

人間ではないらしい。

そんな現実的とは言えないような光景を、私は怖いとも、夢かなとも、何を感じるともなくボンヤリとしながら見つめていた。


気持ちが乗らない。
何をしていても鬱々としていて、何もしたくなくなってしまう。
秋になり、なんだか周りが暗く見える気がして。

「学校、やめちゃおうかな…」

なんとなくで入った学校。
将来『なんとなく』困らないように。

仕方なくやるアルバイト。
やりたかったことじゃない。ただ学校に居続ける、それだけの為。

…そもそも将来なんて考えたこと、あったっけ?
そう…それほど大きくもない普通の会社に入って、言われた仕事をこれまた仕方なくやって、それで…

別れた彼にも、『お前はなんとなくで生きている』と言われたくらい。
でもいつもあとから後悔するんだ…

「!!」

ぼんやりとそんなことを考えていた私の目の前に、いつの間にか前の方で遊んでいたその子が来て私の顔を覗き込んでいた。

その子は笑って私の手を引こうとする。

「あっ…」

そう、掴めるわけはない。その子は半透明なのだから。その子の小さな手は、案の定私の手をすり抜ける。

すると笑顔がみるみるうちに泣き顔に変わり、大きく口を開けて泣き出した。
私に声は聞こえないけれど、涙はポロポロとこぼれ落ちて、着ている着物を濡らしていく。
あれだけの口の開け具合を見るとかなり大きな声で泣いているようだ。

「あぁ、泣かないでよ…」

幽霊だろうと妖怪だろうと、目の前で小さい子が泣いていてはさすがに放ってはおけない。

私は触れもしないその子の頭を撫でるフリをしながら笑い掛ける。

「私を呼びたかったんだね?どこに行こうか?あ、『天国』とかだと困るんだけど…」

その子は自分の着物の袖ですぐに涙を拭うと、早く早くというように手招きをして、私たちの今いる公園の隅に私を呼んだ。

「なあに?」

私がその子に向かって穏やかに尋ねたそのとき、サァァッと一迅の風が吹いた。
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